その日、駅の階段を下りた瞬間 ふわっと、 甘い重力に引っ張られた気がしました。
香ばしくて、優しくて、 でもどこか背徳感があって。
そう、あれは…10年以上前に別れた初恋の香り。
そうして吸い寄せられるようにたどり着いたのが、 ミスタードーナツでした。
「わぁ…ひさしぶり…」 誰にも聞かれてないのに、 口に出してました?
ショーケースの前には人だかり。
でも舞花は気づいてしまったのです。
これは、選ぶという行為ではない… 試されている──“ドーナツの精霊”に。
黒糖ポン・デ・リングは2個。
これはもう宗教。
プレーンは基本の「いろは」、
チョコは…右手が勝手に動いてトレーに2個乗せてました。
いちごのやつ?
いるに決まってます。
きなこは…なかった。 けど、あったと思って買ったことにします(記憶改ざん)。
気づいたら、周囲の人たちはみんな2?3個ずつ。
私は…10個以上?
店員さんが静かに、
でも確実に3度カウントした時点で察しました。
これは社会とのズレ。
でも舞花は、静かにこう思ったのです。
「ドーナツは、必要物品です。」
帰宅後。箱を開けた瞬間に現れる、 まあるい戦士たち。
ひとつ、またひとつと口に運びながら、私は確かに…
“もちもちの宇宙”に旅立っていました。
美味しかった。
うれしかった。
そして、ポイントが溜まりました?
この物語は、後日レインブーツへと進化する。 (続く)
明日の夜で
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