| プライベート日記 |

| 隣室の吐息 |
初めて ビジネスホテルにお邪魔しました。
通路を歩いていると
色んな部屋から声が・・・![]()
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ビジネスホテルの薄い壁は、想像以上に薄かった。
湯上がりの身体をタオル一枚で包み、ベッドに腰を下ろした瞬間――
壁の向こうから、くぐもった声が漏れてきた。
最初はテレビだと思った。
だが次第にそれが女の押し殺した甘い声であることに気づく。
続いて、低く掠れた男の息づかい。
湿った音と、ベッドが軋むような小さな振動。
「……っ」
胸がざわめき、思わず耳を澄ませてしまう。
聞いてはいけない。
大人の女性として、分別ある自分ならそうわかっているはずなのに――
耳を壁に寄せる指先が震える。
知らない男女の、交わりの最中。
その生々しい声を盗み聞きしている自分。
恥ずかしい、卑しい、でもどうしようもなく惹き込まれていく。
頬が熱を帯び、鼓動が早まる。
吐息が自分の中まで流れ込んでくるみたいに、身体の奥がじわりと疼き出す。
「ダメ…聞いちゃ…」
そう心でつぶやくたびに、耳はさらに近づき、呼吸は乱れていく。
罪悪感が甘い痺れに変わる。
他人の快楽を覗き見している背徳。
その刹那、壁の向こうの女の甲高い声が響き、ベッドの軋みが一層激しくなる。
指先がシーツをぎゅっと掴む。
自分の吐息が漏れそうになるのを、唇を噛んで押し殺す。
――私は、なにをしているの?
頭のどこかで責める声が響く。
でも、身体はもう抗えない熱に囚われていた。
隣の声に重なるように、自分の胸の奥で波が打ち寄せる。
背徳と罪悪感に絡め取られながら、彼女は誰よりも濃密な夜に沈んでいった。